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ADMRコラム57 人間に「仮説」を立てる
私が好きな番組で、医療系のバラエティがある。若手の医者(研修医?)を呼んで、何の病気か考える番組があった。知識も経験も少ないから、初めのうちから完璧に当てることが難しく、ときには最後まで特定できないこともある。それほど病気を診断するのは難しいのかもしれない。
病気の原因を探る場合、医者はいわゆるアブダクションという思考法を応用するらしい。症状から原因に仮説を立てて、必要な情報を集めて仮説を立証していく。それと同時に、仮説に合わせた治療をしていくという方法だ。
自動車の修理もこれに近い。お客様から聞いた症状から仮説を立て、原因を探る力は自動車整備士にも必要な能力だ。最近は診断・検査機器の進化で原因を探りやすくなっているのも医師との共通点と言えよう。それでも異常箇所を特定できない難しいケースもあり、そこで経験や知見、スキルが大切になってくるところも同じだ。
これが営業をはじめ、コミュニケーションの取り方が大きなウエートを占める仕事になると”診断”がより難しくなる。なぜなら相手は人間だし、コミュニケーションには様々な意味がある。いくら仮説を立てたとしても、想定外の反応が次々と出てくるからやっかいだ。
具体的には、クルマの営業が2回目の車検を控えたお客様に代替提案をする場合、それまでの接触で「そろそろ買い換えたい」という話も聞いており、いくつかの車種と購入プランを用意して商談に望む。ところが、先方は気乗りしない様子。車検の予約も明確に答えてくれない。要因を推察すれば、子どもが遠方の大学に入学しお金がかかるうえ、乗っているミニバンは大きすぎて不要。コンパクトカーで、できれば安い中古車を求めている可能性もある。そこでどんな提案ができるだろうか。下調べが不十分だと、その場でうまく対応できなければお客様を失うことにもなりかねない。現場ではこうしたことが、しばしば起きているのではないだろうか。
仮説を立てる上で、有益な情報を得ることは必要なことだ。日ごろの会話にも、相手の興味のありそうなことを盛り込み、少しでも有益な情報を得られるようにしてコミュニケーションを深める。分かっていてもうまくいかないことが多いが、それを繰り返すことで精度が高まるだけでなく、相手の特性や要望に合わせて柔軟に対応できる能力がついてくる。仮説を立て、その検証を積み重ねていくことが重要なのであり、診断が難しい「人」を対象にしているのだから、一度や二度の失敗でくよくよする必要はない。
※このコラムは毎週水曜日に掲載いたします。またADMRではYouTubeで動画配信を行っています。ADMR公式チャンネルはこちらからご覧いただけます。