News
新着情報
ADMRコラム㊴ 売れない理由
満を持して投入した新商品が空振りに終わると、責任の所在を巡って部署間が対立することはしばしばある。マーケティングや宣伝の手法が間違っていたのではないか、性能やコストで他社と差をつけられないのは開発や調達部門の詰めが甘かったのではないか、さらには、営業が他の商品に目がいっていて新商品に力が入らないのではないかといった根拠のない責任転嫁の声も出てくる。
自動車もそうだが、人材、資金を豊富にかけて開発した商品だから、多くは競合商品に比べ決定的に劣っていることはない。ただ、ユーザーに訴えるインパクトに欠けたり、競合車に比べアピールできるポイントが少なく、営業としては売りにくい商品となっていたりする。致命的なマイナスはないのだから、苦戦した理由を明確にするのは容易ではない。だから責任転嫁のようなことが起きがちだが、それぞれの部門で”敗因”を検証して次に生かすしかない。
日本の自動車市場は参入障壁があって不公平とアメリカの大統領が言い始めた。30年前に日米自動車摩擦を取材した身からすると「またか」という思いがすると同時に「そんなことを言っているうちは売れない」と改めて感じる。日本の安全基準などは国際的な認証制度に対応しているし、その国の自動車の使用環境によって基準がある程度異なっていてもやむを得ない。日本のメーカーも海外では現地に合わせて車両開発をしているし、日本で販売の多い輸入車プランドも市場ニーズに対応しているから支持されている。
少なくとも不公平ということはないはずだ。それをあえて指摘してくるのは「ディール」の材料にしたいからだろう。関税をチラつかせてアメリカへの投資拡大をはじめ何らかの”成果”が得られればそれでいいという考えとしか思えないが、日本からすれば愉快でないことは確かであり、それが本当に米国車の日本での販売拡大につながるとも思えない。
そもそも30年前は、米国メーカーが日本で販売を伸ばしたいと政府を動かした面があるが、今回はそんな動きは見られない。大統領が思ったことを口にしただけのような印象も受ける。取引のための材料ならば何でも使って、少しでも得るものがあればいいということかもしれない。しかし、朝令暮改が続くような状況では、アメリカの投資もリスクが多すぎてやりにくくなるのではないか。メキシコとカナダの工場が厳しい状況に置かれているように、長期的に安心できる投資環境を整えることがディールを成功させる近道と思うのだが…。
※このコラムは毎週水曜日に掲載いたします。またADMRではYou Tubeで動画配信を行っています。ADMR公式チャンネルはこちらからご覧いただけます。
https://youtube.com/channel/UCqHCBS6u1aYsH4qSjM3MItA?si=zSaDUnfCg8GqMDDA