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ADMRコラム⑲ エースの登板
チームの”エース”とは「その人に任せて失敗したとしても、周囲が納得する存在」のことを言うのではないだろうか。実力はもちろん、評価されるだけの実績も積み上げてようやく認められるもので、誰もがなれるわけではない。だからエースを抱えるチームは当然、大切にする。
30年ほど前、国産車ディーラーがメーカー同士の提携や輸入促進を背景に輸入車販売に相次いで乗り出したことがあった。輸入車のブランドイメージを確立するのと、自社の商品と競合するのを避けるため輸入車専売店を設けたほか、専任セールスを投入して販売を伸ばそうと努力した。
そこでディーラーの幹部が悩んだのが「輸入車の専任セールスをどう選ぶか」という問題だった。中途採用をするにしても、ある程度は自社の店舗からセールスを異動させなければならない。取り扱ったことがない輸入車が自社のクルマと同じように売れるのか、誰もわからない中で、積極的に手を挙げる人は少なかったという。成績が振るわないと、評価や収入に大きく影響するからだ。
ディーラーとしては、メーカーとの信頼関係もあり「ある程度、輸入車で実績を残さないとメーカーに悪い」との思いもある。とはいえエースを配転させてしまうと、自社の販売力が落ちてしまう心配もある。成績の上がらない人ばかり配転しても輸入車ビジネスがうまくいく可能性が低い。結局、中堅どころのセールスを異動させたところが多かった。
「新規ビジネスを成功させるには、各部門のエースを集めること。抵抗はあっても押し切らないと、うまくいくものもいかなくなる」という話を多くの企業幹部から聞いた。国産車ディーラーの輸入車ビジネスの多くが継続できなかったのは、メーカー同士の関係の変化とともに、人の集め方で思い切った決断ができなかったことも背景にあるのではないか。
ディーラーの採用活動も同様の傾向が見られる。ベテランの採用担当者が取り仕切り、従来と同じやり方を踏襲していると「営業、サービスともに目標人員の半分にも達しない」ケースが目立つ。一方で、新たな担当者として、直前まで第一線で活躍していた人材を起用したり、会社説明会や面接に現役の”エース”を同席させているところは順調に採用できているという。就職希望者にとって目指すべき存在が目の前にいると、その会社で働くイメージが描きやすいことは間違いない。
エースは忙しい。わずかな時間でも抜けられると影響は少なくない。上司は手離したくないだろうが、一時的なマイナスと将来のエース候補の確保を比べたらどちらを選ぶか。ここはエースに登板してもらうタイミングではないか。それだけディーラーの採用戦線は厳しくなっている。
※このコラムは毎週水曜日に掲載いたします