News
新着情報
ADMRコラム89 「売れない時期」をどうプラスに変えるか
「落ちるところまで落ちた方が、本当の改革がやりやすいこともある。少し早く回復したのがよかったのかどうか分からない」―30年ほど前のある自動車メーカーの社長との会話だが、今でも鮮明に覚えている。
当時、その自動車メーカーは販売が低迷し、国内の工場は稼働が落ちていた。「従業員は(空き時間が多く)工場の清掃や敷地内の草むしりばかりしており、おかげで工場はこれまでないほど綺麗になっている」と、笑えないようなジョークが囁かれるほどだった。それが、大ヒット車が出たおかげでV字回復した。社長は喜んでいるだろうと感想を聞いたところ、冒頭の答えが返ってきて意外に思った記憶がある。
企業の経営者や幹部には、抜本的に改革しなければならない課題が分かっていながら、痛みを伴う変革を避けたいという気持ちがあっても不思議はない。後がないという状況になれば思い切った手を打たざるを得ないし、社員も納得しやすい。しかし、大きなリスクを伴うことになり、ぎりぎりまで避けたいのが人情だろう。
それでも、そのメーカーの社長はとことん追い込まれた方が「課題を徹底的に洗い出し改革ができる」と考えていたようだ。だから、少し前に大ヒット車が出たことを素直に喜べなかったのだろう。それが会社にとって本当に良かったのか「なんとも言えない」と、厳しい表情で語っていた。
追い込まれた会社はどうにかして利益をあげようと必死になる。ある中堅メーカー系列の販売店は、バリューチェーンという言葉が浸透するはるか前から中古車部門に定評があった。社長は「新車が売れない時期が長かったから、中古車で利益をあげてカバーするしかなかった。試行錯誤する中で人材、ノウハウを蓄積できた」と振り返る。
軽自動車を中心とするある販売店は、新車の営業スタッフが不在の時でもサービスフロントやショールームスタッフが新車の説明だけでなく簡単な見積もりまでできるようにしている。「しばらくヒット車がない時期があり、営業スタッフを十分に採用できなかった。それを補うために一人のスタッフが複数の業務をこなしカバーし合えるようにした」。苦しかった頃の工夫が、結果として効率的な店舗運営につながったと社長は振り返る。
自動車の販売店である限り、メーカーの商品力に売れ行きがある程度左右されるのはやむを得ない。しかも売れるクルマを出し続けることができるメーカーは限られる。その中でクルマが売れなくても存続できる”実力”をどう培っていくか。現場のスタッフを含め苦しい時こそ工夫が求められ、その積み重ねが環境変化に柔軟に対応できる経営基盤の確立につながることは間違いない。
※このコラムは毎週水曜日に掲載いたします。またADMRではYouTubeで動画配信を行っています。ADMR公式チャンネルはこちらからご覧いただけます。
※ADMRではこのほか、オンラインサロンへの参加をはじめコラムや動画の限定配信、経営相談などの特典を用意したADMR会員を募集しています。詳しくはこちらをクリック