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ADMRコラム70 整備士不足で本当に訴えるべきこと
将来なりたい職業など、人気の職業ランキングで常に上位に入るのが公務員だ。倒産、リストラがなく定年まで安定した収入が得られる。地方公務員になった友人は、若いころ「すごく出世すれば別だが、定年までの収入がある程度計算できる」と言っていた。取材で知り合った国家公務員の知人は「自分はエリートではないが、それでも国のため、人のためになる仕事をしているという意識はある」と、やりがいを語っていた。安定と働きがいは、職業を選ぶうえで大切な要素であることは間違いない。
整備業界は人手不足が深刻化する中で、福利厚生を含む待遇改善の取り組みと並行して、高校を訪問して整備の仕事への理解を深めてもらうほか、子ども向けに整備作業の体験イベントを行うなど情報発信に懸命だ。お客様から「修理してくれてありがとう」と言われることが嬉しい。難しそうな故障の原因を突き止められたときに、この仕事をやってよかったと語る整備士はたくさんいる。待遇改善を進めながら、整備士の仕事の面白さを知ってもらうことは重要だ。ただ、そこに足りないものがあるとすれば「将来の安心感」ではないか。
自動運転や電子化の進展で整備のあり方は変わってくる。その中で整備の仕事そのものが大きく減ってしまうのではないかという意識が、これから進路を考える若者やその親にあるのではと思う。実際に、そうした不安を口にする親世代は周囲にもいた。高校の進路指導の先生からも同様なことを言われたことがある。自動車業界の中からも、そうした声を聞いたことが何度かある。
クルマがどれだけ進化しても、走る、曲がる、止まるという動作がなくなるわけではない。センサーで高度に制御するにせよ、実際の作動状況を確認する重要性は変わらない。また電子制御が高度になるほど、それが正常に機能しているか確認する必要性が高まる。つまり点検や整備は、形は少しずつ変わるかもしれないが、不可欠であり続けることは間違いない。そこのアピールが欠けているように思える。
もう一つはシニア世代の働き方だ。体力的に難しくなる、技術の進化に対応していくのが大変といった理由で、定年前後で整備の現場を離れる人が少なからずいる。定年後の再雇用では、工場で重要な役割を果たしていた人も別の業務に就くケースがある。65歳までの定年延長や、70歳までの雇用義務が現実味を帯びつつある中で、整備業界に限らず、多くの企業がシニアの処遇に悩んでいる。だからこそ人手不足の整備業界は、本人の能力と希望により整備の仕事にずっと携われるような魅力ある制度が求められる。若手社員は、ベテラン社員の働き方や処遇に将来の自分の姿を重ねていることを忘れてはならない。
やりがいと同時に、安心して長く働ける「安定」した仕事であることを訴求できるようにしていく。整備士不足を解決する決定打がなかなか見つからないだけに、こうした視点やアイデアがもっとあってもいい。
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